山あいの朝日は唐突に訪れ、すぐさま空を透き通るような青にかえてゆきます。
あたりに積もった雪に光は反射され、容赦の無いコントラストで
風景を白と黒の世界に変えました。
斜面を上る風に追いこされて、一つの影が降り積もった雪に小さな足跡を
延々と残していました。
その少女は白い息をはきながら斜面を上っていきます。
毛皮で作られた広い靴底の浮力を得て、新雪に足を取られながらも、
体を左右に振って歩き続けました。
少女の額に汗が珠を作るころ、目前に切り立った断崖のような景色が表れました。
しかここは他の山肌とは違って、暗く光を吸い込むような黒い岩肌をしています。
しかもその中央には「自然の産物」と呼ぶには似つかわしく無い、、、、
まるで闇を丸く切り取って、貼り付けたような空洞がありました。
それは普通に山歩きをする者はおろか、知識の無い一般人すら近寄りがたい
何とも禍々しい雰囲気をかもし出しています。
しかし、少女はその存在を見つけると、今までの徒労を忘れたような笑みを浮かべました。
少女は待ちきれないように、その空洞に向かって歩みを速めていきます。
洞窟の奥からは何とも形容しがたい、なま暖かい空気がただよっていました。
大人すら立って歩ける大きさですから、何らかの動物がこの場所に住み着いていてもおかしくありません。
しかし、その空気には獣や死骸の臭気どころか、まるで澄んだ沢にいるような、
すがすがしい香りがします。
少女は入り口でブーツやコートの雪をはらい落とすと、光の全くさし入らない洞穴の中へ足を進めました。
ほんの数歩入っただけで、少女の頬に紅がさします。
奥に進むにつれ、洞窟内の温度は高くなっているようでした。
すっかり外の光が入らない所まで来ると、着ているコートすら脱ぎたい程になって来ます。
暗闇に目が慣れたのか、それとも発光性の苔がともす明かりなのか、あたりはぼんやりとした
青い光につつまれて、かざした手の指まで見えました。
ふいに少女が左右に視線を走らせます。
黒光りする石油の原液のようなものが、ぽたりと垂れたかと思うと、少女が向かう先に、
小動物のような早さで岩肌を走ってゆきました。
臆した事の無いように少女が足を進め続けると、彼女の足音を聞きつけたように
それらは表れ、同じように洞窟の奥に向かって姿を消してゆきます。
少女の足取りが止まりました。
どうやらここが洞窟の最深部のようです。
すでに中の空気は、まるでストーブを焚いたような暑さで、
あたり一面の苔で覆われた岩肌は光を放ち、本が読めるくらいの明るさを放っていました。