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しんと凍りついたような朝の静けさの中で、僕はふいに目が覚めた。
暫くぼっと天井を見ていたが…諦めて起きあがり、部屋の角にあるストーブに火を付ける。
暖房のない僕の部屋は、まるで氷が作れそうな寒さだった。
ブルブルと震えながらトイレで小用を済まし、まだ温もりの残っている布団に潜り込む。
このまま2度寝してもいいんじゃないか…‥なんて考えが誘惑のように頭に浮かぶ。
布団の中から伸びてきたもう一つの腕が、僕の首筋に巻き付いた。
「おはよう…おにいちゃん」
ふ ゆ の か ぜ
煉美が僕の部屋に転がり込んで…
いや……それはもう、お馴染みの事だったが、今回は訳が違った。
僕の部屋で寝起きを共にしているのだ…一緒の布団で……‥
「ねぇ…‥今日も…そと、寒い?」
僕の背中に頭をこすりつけながら、煉美が寝ぼけた声でささやく。
はたから見れば…随分と仲のいい兄妹に見えるかも知れないが、御存じのように僕たちは
血が繋がっている訳ではない。
恋人なんて呼ぶのには年齢差に無理があるし、、やはり妹なのだろうか…僕にとって煉美は……
先月、大家に下宿代を払いにいった帰り、通りががりに耳にした住人と煉美の母親の会話から、
彼女達がこのアパートから出てゆくことを知った。
少しばかり寂しい気もしたが……仕方のない事だった。
その次の日……
別れ際に挨拶もヘンかな…などと思いつつ、僕は隣の部屋に訪れた。
そこには、家具のなくなった部屋のまん中で、放心したように座り込んでいる煉美がいた。
母親は、煉美が学校に行っている間に…まるで夜逃げするように部屋の荷物一切を業者に運び出させ、
行き先も告げずに消えてしまったらしい。
あとに残されたのは勉強机と小さな衣装入れだけだった。
途方に暮れている煉美を促して、僕の部屋に荷物を運び……とりあえず好きにさせておいた。
もしかしたら煉美は、いつかこんな日が訪れる事を予期していたのではなかろうか…
僕は、押し黙ったままの彼女を見ながら、そんな事を考えていた。
ほんの少し前の出来事だったが…もう随分と長い時間が経ったような気がする。
どうやら部屋が暖まってきたようだ。
朝食を作るべく、僕は身を起こす。
冷蔵庫の中を物色し終え、扉を閉じた。
そのわきを、あくびをしながら煉美がトイレに向かって通り過ぎる…
「お…おま…‥れんみ……‥」
「ふぇ?……」
ねぼけた眼をこすりながら、間の抜けた返事を僕に返す。
「おま…‥は‥はだか………」
どてらを羽織った煉美は……それ以外なにも身に付けていなかった……
「にへへへ〜 だって…裸のほうが気持ちいいんだモン〜 おふとんの中でおにいちゃんにスリスリするとぉ☆」
朝靄のかかったようなの光の中‥‥煉美の華奢な肢体は、淡く、自ら光を放っているように見える。
その妖しさに吸い寄せられるように…思わず見つめてしまう……
そんな僕の視線を感じたのか、
羽織ったどてらの前を恥ずかしそうに閉じながら、彼女はトイレへと消えていった。
‥……そうか…夕べの感触はそうだったのか… 何と…‥ 惜しい……
僕は遅く帰ったので、先に布団に入っていた煉美の寝姿なんて思いもよらなかった‥‥
今の煉美の寝起き姿を見られた後では、弁解も何も出来ないが……
何を隠そう……彼女が本格的に僕の部屋に転がり込んできて以来
そうゆう行為は‥…正直に言って…‥‥・1度も、、、していない。 本当だ‥‥・
フロにも入るし同じ布団で眠ってはいるが…‥一緒に暮していると妙な安心感というか、怠惰的なムードが
生まれて、いまひとつ…ナニな気分にはならないものだ。
それに、煉美にかかる金銭的な負担も考えて、今まで以上にアルバイト増やしたし
自分なりの手段で、煉美の母親の行方も探している…… 一緒にいられる時間は少ないのが現実だ。
だだ…時折…今みたいに予想外の所で彼女の可愛さを見つけてしまうと……こう、、、、
『ヂャ〜っ!!』
そんな考えをかき消すように、トイレから水を流す音が響く。
だしぬけに、僕の背中に、氷のように冷たくなった手が滑り込んできた。
「ひぇっ! つ…冷てぇ!」
洗った手を僕の背中であたためながら、煉美の細い指がシャツの中で暴れる。
「わあ〜 あったか〜☆」
「コラっ! や‥‥やめれっ! ひ〜っ!」
情けない声をあげながら僕も一緒にはしゃぐ。
せっかくの冬休みなのに、一人きりで部屋待つ煉美の寂しさを……済まないと感じずにはいられなかった。
せめて、朝のこんな時間くらい、彼女の好きなようにしてやりたかった。
「ねえ…お兄ちゃん、お仕事いつ終わるの?」
トレーナーに着替え、簡素な朝食を済ませた煉美が、僕にきりだした。
心配しているようにも聞こえるし…怒っているようにも聞こえる口調だった。
ここのところアルバイトが忙しく、何もしてやれていない……
「……そだな……」
自分の母親以外、全く身寄りがない煉美にとって…今本当に一緒に居てやれるのは僕しかいないと信じている。
僕も本心は煉美とずっと一緒にいたかった…… お金の心配がなければ……
こんな事をストレートに言える程、僕は勇気もなかったし、
煉美を傷つけないように判らせるほどの話術も持ち合わせてはいない。
「とりあえず今日は早く帰るよ、明日になれば終わるから…ナ 仕事…‥」
煉美が少しぶすっとした表情を浮かべる……
「つまんない……」
本当の親であれば…煉美の駄々を聞いて、怒りのようなものを感じるのだろうが……
僕はその可愛さに、きゅっと小さな頭を抱き締めてしまう……
「………」
無言のまますねている彼女のつむじのあたりにキスをする。
「…仕事終わったら…… 一緒にどこかに遊びに行こう…ナ」
そう言うと、煉美が僕の首根っこにぶら下がるような形で抱きついてきた。
「ぜったいだから〜 ネっ☆」
首から腕を放す瞬間に、煉美がチュッと僕の唇にキスを交わした。
------ つづく------
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