やがて、、夏休みも終わりに近付き、穂香ちゃんは美智ちゃんよりも一足早く街に帰る事になりました。
こんなに悲しい気分になった事がない2人の目には、大粒の涙が浮かんでいます。
「絶対だよ!絶対来年もここで会おうね!」
「うん。。。。絶対、、、、ぜったいに約束だよ‥‥」
住所と電話番号を書いた紙を交換しあいます。
「じゃあね、、美智ちゃん、、、」
「穂香ちゃん、また一緒に遊ぼうね‥‥」

夕焼けが迫り来る山あいに消えてゆく、穂香ちゃんの乗った車が見えなくなるまで、、、美智ちゃんは手をふり続けました。

………………‥‥‥‥‥・・・・・・・




穂香ちゃんが去っていって2〜3日。美智ちゃんはまた家の中に隠りがちになりました。

遊んでばかりいて夏休みの宿題がたまっていたせいもありますが、、、やはり穂香ちゃんがいないと、、、何をするにも面白くないのです。
さんさんと日の照る外とは対象に、暗い家の中で黙々と美智ちゃんは算数のプリントを片付けてゆきます。

『そんなの夜やっちゃえばいいんだよ〜!』
日に焼けた肩がむき出しのランニングシャツ。身体が隠れてしまう程の大きな麦わら帽子。
乱暴な口調でそう言う、、、、、男の子みたいな穂香ちゃんが、、、、今にも縁側に現れそうでした。

「…‥・や〜めたっ!」
美智ちゃんはそう言うと鉛筆を放り出し、山に出かける支度を始めました。

木漏れ日から降り注ぐ日光。時折耳を塞ぎたくなるほどうるさい蝉の泣き声。
やっぱり独りで山の中に行くのは楽しくありません。

いつもだったら傍らにいる穂香ちゃんと話をしているうちに、どんどん登ってゆける山なのに、、、
一緒に花を摘んだ草原、アケビのなる蔦の生えた木、化石の付いた岩を見つけた崖‥‥
そんな思いでをかみしめながら、、まるで吸い込まれてゆくように美智ちゃんの足は山の奥底へと進んでゆきました。

「あ、、、」


ふいに気が付けば、穂香ちゃんとは1度しか来た事のない中腹にある小さな沼に辿り着きました。
やけにひんやりとした空気が漂い、あたりに生えている木や草も、少し形が違っています。
初めて来た時は少し恐かったような気がしましたが、今来てみれば楽しかった思いでなのか、恐さは少しもありません。

『ここ、何かおかしな植物が多いでしょ?ボクもよく判らないけど、図鑑を持って来ても名前の判らないのがいっぱいあるんだ』
そんな穂香ちゃんの言葉が思い浮かばれました。

『あ‥‥‥あんまり、ココ、、 うろうろしないほうがイイよ‥‥』
珍しい草花を見つけに、あたりを散策しだした時に、少しモジモジしながら穂香ちゃんがそう言いました。

いつもは男の子っぽくて、勝ち気な感じの穂香ちゃんの声が、何となく恥ずかしい事を口にする、、、、
弱気な女の子みたいな口調に変わっていたのを覚えています。
『ね‥‥もう、、、、行こ☆』
いつもだったら美智ちゃんに『こんなのがあるんだよ〜☆』って教えてくれる彼女が、、、、
珍しく美智ちゃんの手を引いて、いつもより早い時間に山を降りたのは、その時が始めてでした。

改めて見回すと、、、確かに少し不思議な感じがする森でした。
さんさんと日が照っているのに涼しいような、、、今まで通って来た道と同じように風が吹いているのに、、空気に緑が混じっているような。。。
「本当の『森林浴』っていうのはこんな場所でするんだろうな」って美智ちゃんは思いました。

急に、、、
美智ちゃんはワンピースのポケットに入っている「くじ引き飴」の事を思い出しました。
ここに来る途中、駄菓子屋で買った糸が付いている三角の飴です。

さっきからずっとここにいるのに人の声も姿もしない事。
丁度今日の天気が、初めて河原でうんちをしちゃった時と似ている事、、、、

そして、、、、
何とも言えないこの沼の周りの木々の雰囲気が、、、黙って美智ちゃんの事を見つめているような気がして‥‥‥

ごそごそとポケツトの中から何個か飴を引っ張りだします。
うんちをわざと我慢して出したり、、、、おしりに悪戯するのが大好きな美智ちゃんは三角の形をした大小の飴を見つめながら、
久しぶりにいけない気分になってきていました。
「これ、、、おしりに、、、入るかなぁ☆」


…… 続く ……


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